山本晃永氏インタビュー②

2014年04月14日 15:34

 

<アスレティックトレーナーというプロフェッショナルについて>

 Q:アスレティックトレーナーとは、どんな知識やスキルを持った人ですか?

A:スポーツ医科学全般の知識を持っている、というのは一般的ですが、一番知って頂きたいのは、選手のケガ後から復帰までに関して、日本の医療では、ADL(Activities of Daily Living)=日常生活動作、の回復まで、しか基本行いません。

選手たちがスポーツに復帰するまで、のアスレティックリハビリテーションを行えるところは本当に少ないのが現状です。

そういったところで、選手がケガをし、スポーツにきちんと復帰できるまで、をサポートできるような専門的な知識と技術を持っているのがアスレティックトレーナーである、と言えると思います。

また、フィジカルトレーニングの専門家、というのも国内には存在しないので、そこを担うのもアスレティックトレーナーである、と思います。

 

Q:アメリカのアスレティックトレーナーの資格と国内のアスレティックトレーナーの違いなどはありますか?

A:違い、というのはスポーツ医科学の基本を学ぶ、という点ではスポーツの歴史も土壌も異なりますからその違いについて議論することはあまり意味がないのかな、と思っています。アメリカで学んできたトレーナーも私のところには多く来るのですが、大切なのは、何を知っているのか、ということ以上に、今自分がいるところで、その知識や技術をどのように活かせるか、どのように社会貢献できるか、そしてどのように受け入れてもらえるか、ということ、なのです。

アメリカではこうだった、とか、日本はまだまだだ、といったようなことではなく、自分が得た経験やスキルを日本のスポーツ界でどのように活かせるかというところをもっと議論するべきだと思っています。

 

Q:子ども達が安心して、そして安全な環境で学校の部活動に参加するために、私は親としてアスレティックトレーナーが学校に配置されてくれればいいな、と思うのですが、部活動単位でのサポートトレーナーという面では数は増えてきている、と感じられますか?

A:おそらく、強豪校、というわれるところには資格はどうであれ、存在するのでは?と思いますし、その数も増えてきているのではないでしょうか?神奈川県のサッカーで言うと、ベスト8くらいのレベルであれば、ほぼいると思いますね。

 

Q:どの高校にトレーナーがいるのか?というのは保護者や生徒は事前に知ることは出来ますか?

A:学校にHPのサイトや部活のページがあれば、トレーナーを紹介しているところもあるかもしれませんが、なかなか難しいかもしれませんね。各部におけるトレーナーの存在も、実は我々も試合などで配られるチーム紹介パンプレットなどで、あ、この学校にはトレーナーがいるのか、と知る程度なのです。

 

Q:運動部をサポートしているトレーナー同士での横のつながり、というようなものはあるのでしょうか?

A:まずないですね。

 

Q:中学や小学校レベル、いわゆるジュニア、の年代ではどうでしょう?

A:ほぼ存在しないでしょう。私立でもまずいないと思います。サッカーでいえば、もちろんJリーグの下部組織のチーム、ジュニアユースというレベルですと、トップやユースチームのトレーナーが下の年代も見る、という事はあるかもしれませんが、ジュニアスポーツにおいてのトレーナーはほぼ存在しないと言えると思います。

ですので、私たちはワイズパーク、という場所を作り、小学生や中学生、もしくは学校にトレーナーが存在しない高校生以上の部活っ子でも、スポーツを頑張っている子ども達がトレーナーをより身近に感じて、トレーナーのサポートを受けられるようなサービスを提供しています。保護者の方にも是非そういう存在を知って頂き、有効に活用していただければと思います。

 

<子どものスポーツ活動において>

Q:高校や中学の部活動における選手や子ども達へのケアや安全面の管理は十分だと思われますか?

A:十分とはまだまだ言えないと思います。リスクが伴うようなスポーツ、例えば高校生以上になると、アメフトやラグビーがそうだと思いますが、実は事故につながるようなケースは結構あります。ハイリスクなスポーツであれば、やはりトレーナーの存在は必須だと思いますし、その存在がまだ少ない、という現実からも、安全面の管理は十分とはいえないでしょう。

ワイズアスリートサポートとしても、高校のアメフト部のサポートをフルタイムでさせていただいているところがあるのですが、ウォーミングアップ中に選手が倒れ、その場にいたトレーナーの迅速な対応で助かった、ということがあります。

 

Q:ウォーミングアップ中に倒れたのですか?

A:そうなんです。特に頭部に衝撃を受けたわけではないのですが、その場にいたうちのトレーナーが対応し、すぐに救急搬送し、病院で脳の手術を受けました。

原因は先天的なものだったのかも?というお話がドクターからはあったのですが、助かってよかった、トレーナーがいて良かった、という例の1つかと思います。

 

Q:スポーツ現場での安全確保、という面でスタッフが最低限しておくべきことや用意しておくべきものはなんでしょうか?

A:私たちが行っている事業の中でも、そこが学べるライセンスを発行していますが、現場にいる人たちが最低限知っておくべきこと、というのは実は整理してみるとある程度限定することができてくるのです。

プロのトレーナーがするような細かい評価までは必要なくて、病院に行くべきなのか行かなくて良いのか、様子を見て良いのかダメなのか、というレベルのものでしたらやはり現場の人達がある程度できるようになっておいた方が良いと思います。

トレーナーがいないスポーツ現場であれば、指導者や保護者の方がそれをおこなわなくてはいけないのですから。

解剖学や障害の原因などを深く知る必要はなく、この部位にこういう痛みがあったら気をつけなければいけない、とか、そういう事を学んでおけばよいのだと思います。皆さんが普段スポーツ現場で困ったな、とか対応に悩んだこと、というものを学んでおけばよい、そして我々はそれを学ぶお手伝いをしたいと思っています。

 

Q:子ども達の成長に合わせたスポーツ活動について、国内の指導者の方は良くご存じだ、と親は信頼して良いでしょうか? 

A:システム的に養成システムがきちんとできているスポーツの指導者の方は良く学ばれていて知っている、と信頼して良いかと思いますが、残念ながら各競技ごとに大きな差があるのが現状です。旧体制できている競技ももちろんありますが、私が主に関わっているサッカーなどは、かなりきちんとした教育システムが整備されている方だと思います。

 

Q:指導者資格制度は必須にした方が良いのでは?と個人的には思うのですが・・・・

A:理想はもちろんそうですが、国内のスポーツ環境において、多くの指導者はほぼボランティアで活動しています。ボランティアで活動している人たちに、時間とお金を割いて資格をとってください、というのはまだまだ難しいかもしれません。

 

Q:学校の部活動においても、指導資格制度などはないですよね。顧問の先生達もお忙しいと思いますが、今後運動部における指導者資格制度、というものは出来てくると思われますか?

A:こちらもまだまだ難しいでしょう。現実、学校の先生方においては、部活の顧問を受けもちたがらない方が最近は多いと感じます。生徒もさることながら、先生たちの部活離れ、も深刻な問題になりつつあるのではないでしょうか?

 

Q:何か解決策はありますか?

A:外部指導員制度をもっと使ったらよいと思います。そのための予算もあるわけですし。

 

Q:ジュニアのスポーツ指導に関わる方に「これだけは知っておいてほしい」ということはありますか?

A:発育・発達過程に応じた指導方法、というのは知っておいてほしいです。それを知らずに指導すると、子供がそのスポーツを嫌いになって途中で辞めてしまう、ということにつながることもあります。

また、ジュニア時代、高校時代、そして大学や大人になる過程で、関わるスポーツにおいてどんなケガが発生しやすいのか、という事も是非知っておいて頂きたいですね。

 

Q:部活動もしくはジュニアスポーツの、そもそものあるべき姿、子ども達の理想的なスポーツとの関わり方とはどのようなものだとお考えですか?

A:小学生の低学年であれば、やはり神経系の発達が著しい時期なので、それを伸ばすような関わりを、楽しく行っていく、ということ。そして高学年であればそれを習得、定着させていく。中学生であれば、発育がスパークする時期なので、スタミナ系のトレーニングをきちんと行う、ということ。ここをきちんとしておかないと、高校にあがってからそのスタミナをつけるようなメニューも行わなくてはいけなくなります。

骨格が固まってきた高校生くらいであれば、筋力をつけるトレーニングを行っていきたいところなのですが・・・。

 

Q:やはり中学生時期に持久系のトレーニングをきちんとした子と、そうでない子は高校に入ってから差が出ますか?

A:もちろん出ます。

 

Q:スタミナをつける持久系のトレーニングはきつくて子ども達は嫌がり、なかなかきちんと取り組んでくれない、という悩みを抱えたコーチもいらっしゃるかもしれません。何かヒントのようなものがあれば教えていただけますか?

A:外周をただグルグルと走らせておけばよいのか、というと、自分が選手だったら嫌になってしまうと思うんですよ。

大事なのは、パフォーマンスから逆算したトレーニングの内容かどうか?ということ、です。心拍数が~くらいで継続して走ると、こういう効果があって、こういうパフォーマンスにつながるんだ、という説明をきちんと選手たちにしてあげることで、ただ嫌々走らされているものから必要なトレーニングなのだ、という意識に変わり、ちょっときついトレーニングだけど頑張ろう、と選手本人が思う事に繋がります。

 

Q:年間を通じてのトレーニング計画、という点ではいかがでしょう?

A:中学生、高校生でいえば、3年生の時期に大きな大会が行われますから、では1,2年生ではどんなことをしておかなければいけないのか、という事はある程度決まってきます。

指導における細かい年間指導計画、というものは非常に重要になります。

 

Q:スポーツ障害を起こさないため、そして起こりにくい身体作りなどはできますか?小さいうちから行っていたら良いことや習慣などがあれば教えてください。

A:最近の子ども達を見ていて、人間の身体的な動作自体が機能的に動いていない、という子が多いな、と感じます。機能的に動かせるようになるためのトレーニングなどはしたらいいかな、と思います。

また、足部の機能の点で、子ども達の足が変形してきていることが分かってきています。最近の靴は非常に良く出来過ぎてしまっていて、子ども達は足指を使わなくなってきているのです。足の指の機能を高めるようなものは小さいうちからしておいたら良いでしょう。

 

Q:例えばどんなことでしょう?家庭できる簡単なものはありますか?

A:うちでやらせているのは、100円ショップなどで売っている、足指パット、を使って、それをグーっと掴むようなトレーニングです。

 

Q:ケガを良くする子、としない子、の違いは何かありますか?そもそも強い子、というのはいるのでしょうか?

A:合理的に身体を動かせている子、というのはケガをしにくいと思います。そもそも強い子とそうでない子がいるか、というとそれほど差はないのではないかな?と思っていて、強くない子、でも、必要なトレーニングや補強的なものをきちんと行えば、ケガをしにくくなってきます。

 

Q:山本さんが考える「良い選手」とはどんな選手ですか?

A:育成のレベルで言うと、メンタル面は非常に大切なポイントです。良い選手、という定義は非常に難しいですが、同じトレーニングをしていても、伸びていく選手とそうでない選手に分かれます。何が違うのか?というと、やはりメンタルなんですね。指導に耳を傾け、まずはやってみよう、と行動する子、というのは伸びますが、助言を聞かず、アドバイスも受け入れないような子は、どんなに才能があっても伸びません。

また、育成年代から見てきた子で、日本代表にまで上り詰めた選手は、そのスポーツが大好きだ!!というのが子どもの頃から全面に出ていました。好きだから、こそ、それを教えてくれる人に対して感謝の気持ちを持てるし、そして色んなことを実践しよう、と努力もできるんですね。

例をあげると、サッカーの長友選手や中村(憲剛)選手などはそうでした。他の子と比べ物にならないくらい、目をキラキラと輝かせてサッカーに取り組んでいました。

 

Q:やはり全然違っていましたか?

A:憲剛選手などは典型的でしたね。高校時代、身長も150cmくらいしかなく、まさか彼がプロ選手になるなんて思ってもみませんでしたが、やはり高校生のころからサッカーに取り組む姿勢はずば抜けていましたし、プレー中は誰よりもキラキラと楽しそうで、そして声も良く出す選手でした。

 

Q:選手(子供)本人が(親ではなく)そのスポーツを好きでいる事が大事である、ということでしょうか?

A:そう思います。

 

Q:勝つ、という事に対してのこだわり、に関してはどうですか?

A:勝ちたい、と強く思うことは選手としてとても大切ですが、日本のトップ選手になった人たちがずっと勝ち続けてきたのか、ずっとミスなく成功し続けてきたのか、というとそうではありません。負けたことによるくやしさ、失敗を糧にして努力してきた結果、なのです。

スポーツにおける成功体験はとても大切ですが、失敗やミスの経験も必要です。

もしその子がトッププレーヤーになれなかったとしても、大人になって社会に出たとき、上手くいかないこともたくさんあるわけですから、スポーツで経験したくやしかったことやそれを乗り越えたときの力などは、たくましい精神力を育てるでしょう。

スポーツの良さ、というのは必ずしもトッププレーヤーになることだけではなく、そのスポーツを通じて自分の人生が豊かになったり、自分が人間として強くなったりすることでもあるのだと思います。

 

<サッカーにおけるポーツ外傷と障害の手当について>

Q:幅広いレベルのサッカー選手をサポートされている山本さんですが、サッカーで多いケガは何でしょう?年代別やレベル別にやはり違いはありますか?

A:足首の捻挫というのは非常に多いですね。また膝や股関節を痛がる選手も多くいます。成長過程の子どもに関して言えば、やはりサッカーではオスグッド病を発症する子は多くいますね。

 

Q:オスグッドやシーバー病などは予防が可能ですか?

A:正しい身体の使い方をすること、トレーニングメニューにあわせたケア(アイシングやストレッチなど)を正しい方法で行う事、など、をきちんと行えば予防はある程度可能だと思います。

 

Q:サッカー上達のために、小学校時代から2つも3つチームを掛け持ちしている子も良く見かけます。これはサッカーの上達につながると思われますか?

A:いい指導をたくさん受けられているのであれば、上達につながるでしょうね。ですがやっている内容によるのかな?と思います。

スキルをあげる指導をしているチームを掛け持ちしているのか、体力をつける指導をしているチームを掛け持ちしているのか・・・。同じ動きを強い強度で繰り返し行う、という事はやはり障害につながる可能性は高くなります。

お子さんが関わるチームではどんな指導を行っていて、どんな力の強化を目指しているのか?という事を良く調べてから参加されると良いのではないでしょうか。

 

Q:ズバリ、サッカーが上手くなる方法、というのはありますか?(笑) プロになりたい!と夢みている子ども達に何かアドバイスがあればお願いします。

A:発育・発達の中で、やるべきことをやる、という事なんだと思います。日々の積み重ねがやがて結果に繋がります。

 

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