谷医師インタビュー(脳震とうについて)②
Q:スポーツ活動中に頭を打ったり、大きく揺さぶられたりして、でも症状も軽く、とりあえず様子を見ようかな?という時、何分くらい様子をみればよい、というような指針はありますか?
A:何分、ということではなく、脳震とうかな?と思ったらその日はやめた方が良いです。
Q:では脳震盪の症状のチェックをし、バランステストもし、何も問題がなければプレーに復帰可、ということでしょうか?
A:それで良いと思います。脳震とうの症状もなく、バランスも問題なければ脳震とうではないんだね、という事でプレーに参加させて良いでしょう。
Q:頭部を外傷し、子供が頭痛を訴えてきた場合、市販の頭痛薬を与えても良いですか?
A:それはダメです。頭痛薬、というのは症状の原因を取るものではなく、症状を楽にするもの、なんです。頭痛、というのは頭の中での出血を起こした時の「警報」の役割を果たしてくれているのです。痛み止めを使うことで、発見が遅れてしまう、という危険性があります。
Q:冷やす、というのはどうですか?
A:効果はありません。今お話ししているのは、頭の中、「脳」のことなので、例えば、頭部の外側をぶつけた、というような場合には他の部位と同じようにRICE手当、冷やす手当をしてあげても良いですが、頭部の中、脳に関しては冷やす行為自体は意味がありません。
Q:頭部外傷について、だいぶ保護者にも知識がついてきて、まずは医師の診断、ということで診察を受けさせ、その際に「痛みがなくなったらもうスポーツをやってもいいですよ」と言われた場合、復帰プランに従わずに医師の言うとおりにしてよいのでしょうか?
A:スポーツ活動における脳震とうの対応について、全ての脳外科医師が対応できるか、というとまだその状況では残念ながらない、です。もちろん、学会の学術総会などでも、この段階的な復帰プランを知ってほしい、と私たちも強調して伝えているのですが・・・。
ですので、診察の際には是非保護者の方からも、医師に確認してほしいと思います。
Q:どんなことを確認すればよいでしょう?
A:段階的な復帰プランがあると思うのですが・・・?というようなことですね。
そしてその他にも保護者の方に気を付けてほしいのは、頭痛が長く続いている場合です。通常、頭痛というのは5日から10日で良くなってくるものなのですが、全然良くならない、という場合は積極的にMRIを撮ってもらってください。最初の診察時にCT撮ったから大丈夫、と言われても、頭痛が改善しないようなときは、保護者の方から医師にMRIをお願いしてください。
頭部内のごくわずかな出血、というのは通常自然に吸収されるものなのですが、その吸収された跡、として”かさぶた”のような状態がまだあるわけなんです。その”かさぶた”の状態の時に頭が大きく揺さぶられると、”かさぶた”がはがれて大出血を起こしてしまう、ということなんです。
特に柔道などでは多く発生していて、柔道の事故で命を落としてしまったお子さんの中には、10日か1ヵ月くらい前に頭をぶつけていたけれど、医者に大丈夫だ、といわれていたり、実際出血があったけどやらせてしまった、ということもあるんです。
ですから、頭痛が続く場合などはより慎重に医師に対応してもらうようにしてください。
Q:サッカーにおける繰り返しのヘディング、の影響というのはどうなんでしょうか?
A:保護者の方たちは心配かもしれませんね、ヘディングをたくさんすると頭の方に悪影響が・・・と。ですが、今我々も研究をしているところですが、目的を持ったヘディング動作、というのは大きく脳が揺さぶられることはない、のです。
プレー中に空中からドサッと落ちる、とか、不意打ちでぐわっと頭が揺さぶられた時に脳震とうが起きるとされているので、一般的にはヘディングは大丈夫だと思っていただいて平気です。まだ結論が出ているわけではないので、今後の研究発表などは関心を持っていただきたいところです。
ただ、1つ言えるのは、少し前から出てきたヘッドギア、をつけていたとしても脳震とうは防げません。むしろ、それをつけることによって質量が増えて重くなり、よけいに揺さぶられる危険性が増します。
Q:マウスピースはどうですか?
A:脳震とう予防の観点からは意味がありません。装着することには否定しませんが・・・。
Q:脳震とうを繰り返すと何が怖いでしょう?
A:脳震とうを繰り返していると、脳の中の電線のケーブルのようなものがプチプチ切れ、様々な脳の障害、例えばパーキンソン病やアルツハイマー病を発症する可能性が非常に高いのが怖いです。
その中で有名なのが、モハメド・アリで、彼はまさに慢性脳損傷の症状が現れています。手足が震えてしまったりするパーキンソン病ですね。
アメリカンフットボールでは、NFLの引退選手約2500人へのアンケートで、3回以上脳震とうを起こした事のある人数が全体の約4分1だった、という結果があります。
その4分の1、約600人のうち、33人がすでにアルツハイマー病を患っているのです。
脳損傷が慢性的になってしまうのは、その後の身体に非常に危険な影響を及ぼす可能性が高い、といえます。だから気を付けてほしいのです。
また、一回脳震とうを起こした子は、起こしていない子と比較して6倍、再び脳震とうを起こしやすくなりますから、それも気を付けてください。
そしてもう1つ、脳震とう後、段階的復帰プラン(GRTP)に沿った上で復帰しても、また運動強度をあげると気持ち悪くなって・・・じゃあ段階を下げて、そして徐々に上げてくとまた症状がでる、それを繰り返す・・・良くなったな、と言って強度を上げたりすると、気持ち悪くなったり頭が痛くなってしまう選手、というのは意外と多いです。それはもう慢性脳損傷に近くなっている可能性があります。
Q:それは治るのでしょうか?
A:治らないかもしれない。ですから医師としてはコンタクトを止めてね、ということしかできないのです。
選手達の将来の身体の事を思って、酷な話ですが、バリバリの現役選手にもコンタクト禁止、という事を伝えることもあります。
Q:その他に先生が気にかけていることはありますか?
A:教育現場での運動指導、つまり部活ですね。運動部顧問の先生方へも脳震とうの危険性を伝える活動も今後さらに増やしていかなくては、と思っています。
ですから、スポーツペアレンツさんはお子さんの指導者が頭部外傷についての知識をきちんと持っているのかは確認したほうが良いでしょう。
また、学校においては養護教員の方や、校医として関わっているドクターが積極的に頭部外傷の危険性を教師たちに伝えてほしいと思います。
Q:指導者の方にこれだけは最低限知っておいてほしい、ということはなんでしょう?
A:4つあります。
①頭を打ったときの緊急時の対応(→すぐ救急車、もしくは脳外科医のいる病院へ搬送なのか、様子を見るのか)、を知ること
②脳震とうとは何なのか、を知ること
③繰り返しの脳振とうは危険である、ということ
④プレーへの復帰は慎重に
Q:保護者へはどうですか?
A:これまでお伝えした注意事項を守ってスポーツペアレンツとして頑張って頂ければと思います。
また、子供にプレーをさせたいがために、症状を偽ったり、診察をためらったりするようなことは決してしてはいけません。