専門家インタビュー 

学校リスク研究所 内田良先生インタビュー(2)

<学校の部活動の安全について>

 

Q:学校の部活動がより安全な環境になるためにはどうすればよいでしょう?

A:精神論・ガマン文化から,「スポーツ科学」への転換が必要です。

 

Q:部活指導に当たる顧問の先生達は、指導に必要なスキルや知識は十分にお持ちだと思われますか?

A:ご存じのとおり,欠けていると言わざるを得ません。それを期待するのだとすれば,部活動という制度(課外指導)のあり方を根底から変えるべきでしょう。

 

Q:文部科学省は、部活動の在り方に関するガイドラインの冊子を作成しているようですが、一部では根本的な解決には程遠い、という意見もあります。内田先生のご意見はいかがでしょう?

A:重要な提言がたくさん記載されていて,高く評価したいと思っています。ただ,体罰の項目に関しては,いくつか気になる点もあります。

たとえば,線引きに終始している点。許される行為ばかりが最初に多く記載されている点。構成としては,最初に暴力根絶宣言のようなことを訴えてほしかったです。

そして,細かいことで気がかりなのは,「熱中症の発症が予見され得る状況下で水を飲ませずに長時間ランニングをさせる」ことがダメとされている点です。

水を飲ませて長時間ランニングだったらよいのか・・・そもそも運動させること自体に問題意識をもってほしいです。

 

Q:外部指導員制度はどうでしょう?広がることで子ども達のスポーツ環境は向上すると思われますか?

A:いまのところそのようには考えていません。外部指導者のほうが,教師よりも,非暴力的で,科学的であるという確信がもてないからです。

柔道事故をみる限り,とくにそれを強く感じます。むしろ,各競技団体の利権を拡げる機会になっているようにさえ思えます。

 

Q:個人的には、部活動やスポーツ現場での安全環境向上のためには、それを管理もしくはコントロールする人材がいるべきだと思うのですが・・・例えばアスレティックトレーナーです。こういう人材が学校に入ることで環境改善に一役かえそうですか?

A:大いに賛成です。学校スポーツの科学化を促進していただきたいです。

スポーツペアレンツジャパンさんの専門家インタビューにもご登場されていた、早稲田実業学校の高橋忠良先生のような存在がもっと広がればいいと本当に思います。

 

Q:経済的な問題から、アスレティックトレーナーに対してのPayが難しいのでは、という点があるようです。顧問の先生がほぼボランティアで活動しているのに、トレーナーには報酬をだすのか、と。

A:でも、スクールカウンセラーとしての臨床心理士の存在などを考えると、常勤でなくても学校に入っていく、ということは可能性としてはあると思います。

 

Q:まだアスレティックトレーナーの存在が知られていない、ということもありますか?

A:それはあると思います。一般的には、実際、何をしてくれる人たちなんだろう・・・と大半の人が思っているかもしれませんし、私自身も、アスレティックトレーナーの具体的な活動内容について詳しくは知りませんでした。

 

Q:部活動で起きたケガや、安全な運動指導におけるスポーツ医科学情報の提供、他の部との情報共有にもアスレティックトレーナーは力になれると思うのですが・・・。

A:なるほど、学校においてかなりの時間を割いているにも関わらず、各部におけるケガ人の報告や指導における情報の共有がどこまでなされているのか。

国語科とか数学科などの教科別には,教科会というものがあり,これは中学校や高校の教員において重要な活動単位となっています。

同じように,部活動の先生たちが集まる部活動顧問会のようなものがしっかりと機能することが望まれます。その中心に,アスレティックトレーナーが位置するということを,一つの理想として考えることができるでしょう。

野球部でこういうケガがあったから、他の部でも気を付けてください、とか、今日は気温が~度だから、各部で練習は2時間までにするように、とか・・・そういう指示を誰かが出すようなシステム・・・。必要性を感じますね。

 

Q:例えば、もともとのベースの知識を持っておられる保健体育の先生や養護教諭の先生に、アスレティックトレーナーの資格を取って頂いて部活動の安全管理の責任者になって頂く、というようなアイデアはいかがでしょう?

A:なかなか現実的で良いアイディアだと思います。外部から人を入れるより早く実現ができそうです。そういう人たちもトレーナー資格は取れるんですか?

 

日本体育協会のアスレティックトレーナー資格を最初から取るのは、競技団体からの推薦が必要だったり、時間もかかるということから今のシステムでは難しいかも知れません。部活動専門のアスレティックトレーナー資格のようなものができればいいですね。

 

アスレティックトレーナーの方々のインタビュー一覧はこちらからどうぞ

 

Q: 「ぎりぎりまで追い込む」ことや、「限界まで挑戦・・・」ということが日本の部活では美徳のように捉えられることが多いのかな、と感じるのですが、「きついこと」と「危険なこと」との見極めはどこにあると思いますか?

A:いわゆるガマン文化ですよね。ガマンの先に,スポーツの真髄がある,みたいな。まずはそれを捨て去るべきです。でも,しんどいトレーニングも必要だと思います。その指導こそ,理想的には,アスレティック・トレーナーが担うべきでしょう。

 

Q:部活指導における「体罰」は禁止されましたが、本当になくなるでしょうか?根本的な解決策は何だと先生はお考えでしょう?

体罰だけでなく、部内でのパワハラも問題かと思いますし、指導者だけでなく、先輩後輩の問題も根深いと思うのですが・・・

A:指導者が古き暴力的態度を示していれば,かりに直接には手を出すことがないとしても,上級生に下級生の指導を任せたとき,そこに暴力が発生します。

 

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