細川氏インタビュー①

2014年07月14日 18:23

 <ご活動について>

 Q:細川さんがお勤めのKorey Stringer Instituteについて教えてください。

 A:「スポーツ関連突然死をなくすための支援活動を教育活動や研究、国・州の法律およびスポーツ活動に関する安全基準の作成、メディアによる啓蒙活動を通して行っている」(ブックハウスHD スポーツメディスンより)

加えて

熱射病患者の競技復帰に関するコンサルティングや、暑熱環境下におけるスポーツパフォーマンスに関するプロアスリートのコンサルティングも行っています。

 

Q:大学の博士課程と並行してKSIでも活動されている、ということでしょうか?

A:そうです。大学の博士課程での私のアドバイザーである教授がKSIを運営しています。私の同僚も、多くはアスレティックトレーナーをしている運動生理学者です。

 

Q:KSIに勤めるようになったきっかけ、はなんでしょう?

A:University of Arkansasに在籍中、アーカンソー州では熱射病による学生の死亡事故を機にスポーツ安全に関する州法の規制が次々と更新されたのですが、その動きの背景にKSIのCOOであるDr. Douglas Casaの存在を知り、博士課程は彼の元でKSIに所属しながらスポーツセーフティについて科学と現場の両方からアプローチしたいと思ったことがきっかけです。

 

Q:アスレティックトレーナーを目指されたきっかけを教えてください。

A:高校に進学する前の4年間、アメリカに在住していた時に始めてアスレティックトレーナーの存在を知りました。選手として直接関わることは無かったのですが、その後、アスレティックトレーニングについて調べていくうちに、スポーツ・科学・医学・人を融合したこの学問に魅せられ、アスレティックトレーナーになりたいと思うようになりました。

 

Q:アスレティックトレーナーであっても関心がある分野はそれぞれですよね。パフォーマンス向上であったりスポーツ障害予防であったり、リハビリテーションであったり。細川さんがスポーツセーフティという分野が一番大切だ!と思われたきっかけ、というようなものはなんだったのでしょう?

A:以前私立の中学校に雇用されていたのですが、そこではたった一人のアスレティックトレーナーでした。これまでの環境、各チームに一人ずつトレーナーがつく、という事が当然であった所と比較し、驚いたのと同時にさて、どうしよう、という不安が大きくありました。

その時、何より大切なのは、パフォーマンスの向上よりなにより、600人いる生徒たちの安全をたった一人でどのように守っていけるのか?ということでした。

そこでまず始めたのは、指導者達がどのような資格を持っていて、救命救急の講習はいつ受けていて、更新はされているのか、ということ、そしてEAPはきちんとあるのか?生徒たちのアレルギーはどうなのか?という事を確認していく作業を行っていきました。

トレーナーは私一人なので、Aコートの試合を私がカバーしている時でも、同時にBコートやCコートで他の競技の試合中、何かが起こる可能性もあるわけです。

学校にいるアスレティックトレーナーとして、自分の目の前にいる子たちだけが安全でいいのか?と思い、そこを変えるためにもまずはコーチや学校との連携が非常に大切だ、と思うようになりました。

 

 <スポーツ関連突然死>

Q:スポーツ関連突然死、として、KSIでは、急性心停止、熱射病、脳損傷、頸椎損傷、喘息やアレルギー反応、などをあげていますね。これらは正しい知識、事前準備や管理によって予防が可能である、ということですが、個々においてどのようなことを知っておいてほしいか、情報をシェア頂けますか?

A:

●急性心停止

知識

   急性心停止の状態の患者を助けることができるのは迅速なCPR/AEDのみ

   球技の場合は心臓震盪にも注意(この場合助けることができるのは迅速なAED)

 ・事前準備: 

   練習場に最低でも必ず一人CPR/AEDの資格をもっている人がいること

   AEDへのアクセス(※)が3分以内(1分以内が理想=常にサイドラインにある状態   ※片道3分の場所では遅い

管理

   CPR/AEDの資格の期限が常に更新されていること

   使用するAEDの管理責任者を明確にする

 

●熱射病

(こちらは熱射病対策と対応の参考写真)

知識

 対応が遅れれば致死に至るが、(30分以内に)しっかりとした準備と対応をとることができれば100%防ぐことができる。炎天下で運動していても、しっかりとした休憩と水分補給ができていれば大体は防ぐことができる。

多くの致死例は 罰走や、コーチの非人道的な判断、選手が数日前まで体調不良だった、など 複数の要因が重なることで起きる。

事前準備

  十分な水分補給・睡眠・栄養

 身体を冷やすものの準備(氷・水・子供用プール);熱射病の患者を冷やす場合、動脈へ氷を当てる方法は不十分。

管理

   熱射病を疑った場合は直ちに冷やすこと。救急搬送は体温が40℃以下になったことを確認してから行なう。

 

Q:スポーツペアレンツジャパンでも熱中症の予防対策のセミナーを行うのですが、良く聞かれるのが「スポーツドリンク薄めていいですか?ダメですか?」というものです。これに関してはいかがですか?

A:まずその個人がどれくらい飲む必要があるのか、そしてどれくらい飲んでいるのか?という事だと思うのです。ジュニアレベルであれば、スポーツドリンクに含まれるナトリウムの濃さ、よりも普段3食の食事で栄養のあるものが取れているか?という方に関心を持ってほしいです。

 

●脳損傷

 ・知識

     脳内出血を伴う場合は脳しんとうとは異なり、時間を追うにつれて症状が悪化する

     脳内出血が疑われる場合はただちに救急搬送すること

 ・事前準備

     脳しんとうの対応プランを事前に準備

     脳しんとうの症状をコーチ・選手・親の全員が共有すること

 ・管理

     医療従事者から許可がでるまで競技復帰しないこと

     競技復帰は漸進的に行なうこと

     練習中だけでなく、学校や日常生活へ支障がでていないかも考慮すること

 

●頸椎損傷

 ・知識

     頸椎損傷が疑われる場合は、医療従事者によってその疑いがないと判断されるまで選手を動かしてはならない (選手にも動くなと指示すること;チームメイトや審判もむやみに身体を起こそうとしないこと)

     選手に意識があり、手足の指を動かすことができ、かつ 四肢のしびれや麻痺、頸部の痛みを伴わない場合は他の傷害を疑う(例:脳しんとう)

 ・事前準備

    脳しんとうの受傷機転と似ていることが多いため、事前にコーチ・選手・親の全員で情報を共有しておく

 ・管理

     ヘルメット・防具着用の場合はむやみに外さないこと

     評価・搬送は医療従事者の判断に従うこと

     心停止が疑われるときは心肺蘇生を優先

 

●喘息・アレルギー

 ・知識

  アレルギーによるアナフィラキシーショックの要因には食べ物、化学薬品、ゴム樹脂、虫さされ、運動、寒さなどがあげられる。

 ・事前準備

   喘息とアレルギーの既往を毎年シーズン前に調べる

   喘息薬は個人によって処方するタイミングや量等が異なるので、コーチは事前に本人・親・医師と確認すること

 ・管理

    喘息およびアナフィラキシーを起こす可能性のあるアレルギーをもつ選手がチームに居る場合は、選手本人が吸引器/エピペンを毎練習持参すること。また、それらがどこにしまわれているか(例:鞄の内ポケット)についてコーチと共有すること。

    選手に意識がある場合、コーチ・保護者は吸引薬・エピペン投与の補助を行なう

 

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